特区長ご挨拶
長崎大学学長特別補佐
森田 公一
国際社会は、2019年末に出現した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の初期の封じ込めに失敗し、現在もパンデミックの状況が継続しています。欧米諸国では迅速な研究実施により、2020年末には抗ウイルス薬、抗体医薬品やmRNAワクチンを実用化して世界のCOVID-19対策に貢献しました。一方、我が国はこの分野で著しく遅れをとり、国内で使用されるワクチンや治療薬は、外国において研究・生産された物が主流です。その原因の一つとして、未知の感染症を含む様々な感染症に対応するための感染症研究力が国内に不足していたことが挙げられます。
COVID-19も含めた昨今の新興・再興感染症の増大の多くは、複合的な要因の帰結と考えられますが、特に経済活動の拡大による環境破壊により未知の病原体とヒトとの接点が増えたこと、グローバル化に伴うヒト・物・動物の移動時間の短縮と拡大、そして、気候変動(温暖化)による感染症分布の変化が大きな要因であることは間違いありません。COVID-19のパンデミックの終焉も過ぎ去ろうとしている今、人々は再びかつての生活様式を取り戻そうとしています。その結果として、我々は今後も新しい感染症のパンデミックに遭遇する可能性があり、それへの備えをしておく必要があります。
これまでにも何度となく言われてきたことですが、未知の感染症を含む様々な感染症に対応するためには理にかなった研究・人材育成体制、社会システムの整備が必須です。とくにアカデミアが担う役割において早急に必要とされる領域として、
1) 国内にない感染症の海外での先回り研究の実施
2) いかなる病原体にも対応できるBSL-4施設を含む研究施設の整備
3) 感染症を治療する感染症専門医の充足の改善
をあげることが出来ます。
本学では1942年の東亜風土病研究所(現熱帯医学研究所)の開所以来、絶え間なく感染症の教育・研究とそのインフラ整備に力を尽くしてきました。現在では5つの部局を中心に上記3つの領域に対応して、アジア・アフリカ教育研究拠点における調査研究(熱帯医学研究所)、BSL-4施設を中核とする病原体取り扱い施設の整備(高度感染症研究センターの設立、2022年4月)、高度感染症対策専門人材の育成(医歯薬学総合研究科)、感染症専門医の育成(大学病院)が実施されています。
この度、本学は次のパンデミックに備えての迅速な感染症研究を遂行する組織として、2022年4月に学内資源を統合的に活用すべく「感染症研究出島特区」を開設しました。学内の有能な人材を可視化し、医学系に加えて情報データ科学部、経済学研究科、多文化社会学研究科等の協力を得て感染症研究の強化・効率化を図りつつ、2021年にG7が示した「100日ワクチン構想」などパンデミック時の緊急対応にも資する組織改革を目指してまいります。皆さまにはいっそうのご支援を宜しくお願い申し上げます。